加工食品にうま味やコクをつけ加える化学調味料 たんぱく加水分解物

食品添加物

たんぱく加水分解物と聞いて、どんな物質だと思いますか。化学の教科書に出てくる化学物質みたいな名称ですが実はこれ、加工食品にコクやうま味を加える調味料なんです。今回は、たんぱく加水分解物について調べました。

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たんぱく加水分解物とは

たんぱく加水分解物とはたくさんのアミノ酸を主成分とした、加工食品にうま味やコクをつけ加える化学調味料ことを言います。うま味を加える化学調味料ですが、法律上では食品添加物ではなく「食品」として分類されています。理由は加水分解という製造加工によって作られているので食品として分類さるルールからだそうです。アミノ酸液のほかに、植物性たんぱく質や動物性たんぱく質を酸や酵素で加水分解して作られた生成物の総称をたんぱく加水分解物と言われています。

加水分解とは

化学的に説明すると反応物となるものに水が反応して分解されて生成物が得られる反応のことで、たんぱく加水分解物に置き換えて加水分解を説明すると、原料となる動植物のたんぱく質をアミノ酸に分解する方法を加水分解と言います。

タンパク質を加水分解する方法は以下の2種類の方法があります。

  • 微生物を培養して作った酵素で分解
  • 濃い塩酸を使って分解

たんぱく質の正体を英語で解明していくと

そもそもタンパク質はアミノ酸の構成成分です。アミノ酸同士が脱水し結合して形成された物質であるペプチドは、2~50程度のアミノ酸が結合した物質で、アミノ酸の数によってジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチドなどと呼ばれるものがあります。

この中でタンパク質はポリペプチド=polypeptideといいます。このpolyはギリシャ語で「複数の、たくさんの」という意味があります。タンパク質はペプチドの中でも、食品にうま味をくわえる成分の素であるアミノ酸がたくさん結合している物質になります。

食品への表示

たんぱく加水分解物は加工食品にうま味を加える目的で利用されます。加工食品の製造過程で失う風味を補ったり、一般的に好まれる味に仕上げるために、素材の持ち味だけではなくうま味を補う必要があるため、たんぱく加水分解物が利用されます。もちろん加工食品にはたんぱく加水分解物のほかにグルタミン酸ナトリウムなどの調味料や肉などのエキスも添加されています。

添加物であるグルタミン酸ナトリウムなどの調味料は、厚生労働省によって使用した調味料についての食品の表示の仕方に厳密な決まりがあり、各メーカーはその原則に従って使用した添加物等を食品の表示に明記しなければなりませんが、たんぱく加水分解物はうま味を出す目的で加工食品に添加されますが、法律上は添加物ではなく「食品」として分類されているので、表示の仕方に決まりがなくなります。

ただし食品表示法を考案している消費者庁や食品の表示の内容を取り決めている厚生労働省、保健所などにたんぱく加水分解物の表示の仕方について問い合わせたからの意見では、「食品の表示に関して、使用したものは明記しなければならないと製造者側には指示は出していて、たんぱく加水分解物についても、添加物のような取り決めはないけれど、使っているのに何も表示しなくてもいいというわけではなく、食品に使用したのであれば何らかの形で表示しなければならない」と製造者側には国の機関から指示をだしているという回答をもらったそうです。

ただ食品の表示を決める消費者庁からは、「たんぱく加水分解物は加水分解の段階で不純物が含まれていることも多いので、たんぱく加水分解物の表示の仕方は、加水分解後の成分などの関係から、消費者庁および厚生労働省としては使用してあるものは明記するように指示はしているけれど、表示の仕方は製造したメーカーに任せるしかない」と回答されたそうです。

発がん性や危険性

濃い塩酸などを使い、酸を加えて加水分解のする場合の原料は、動物のくず肉などの動物性のタンパク質や脱脂加工大豆(大豆油のカス)や小麦グルテンなどの植物性タンパク質を原料にしてたんぱく加水分解物を作ります。

たとえば牛肉にはたくさんのアミノ酸が結合したタンパク質が含まれていますが、同時に多糖類や核酸、脂肪などの成分も含まれており、加水分解の対象となる原料で含まれる物質にも大きく違いがでてしまいます。この時一緒に生成されてできてしまう化学物質に発がん性の心配がもたれ、人体へ悪影響をもたらすのではないかと懸念されています。

心配される化学物質はクロロプロパノール類と言われている化学物質ですが、農林水産省ではこのクロロプロパノール類は製造工程の副産物として生成され、長期間毎日大量に摂取すると健康に悪影響を生じる可能性があるので、食品にたんぱく加水物を高濃度加えるのは好ましくないと報告しています。

クロロプロパノール類には以下の4種類があります。

  • 3-クロロプロパン-1
  • 1-ジクロロ-2-プロパノール(1-DCP)
  • 3-ジクロロ-2-プロパノール(3-DCP)
  • 2-ジオール(3-MCPD)

どれも工業分野で利用されている化学物質ですが、1970年代後半に主に醤油などの調味料の原材料に用いられ、大豆油を搾ったカスの脱脂加工大豆などの植物原料由来のたんぱく加水分解物であるアミノ酸液の中に発がん性が疑われる2-ジオール(3-MCPD)が含まれていることが明らかになりました。

このアミノ酸液を利用している関連の製造業者ではクロロプロパノール類の低減の取組みを行ったり、農林水産省でも実態調査や化学的なデータをもとに業界への指導を行うなどクロロプロパノールの使用低減の対策が行われました。

クロロプロパノール類の国内外の危険性の評価

クロロプロパノール類の中の3-MCPDおよび1,3-DCPについて、ラットを使った発がん性の試験が行われています。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)からの評価は3-MCPDにおいてはあらゆる見地から見て、人が一生涯にわたって摂取し続けても健康への悪影響が出ないと推定される暫定最大1日耐容摂取量を2ug/kg体重/日にする勧告をだしました。1,3-DCPについては動物での発がん性は認められたものの人間が普通に摂取する量を考えると人間への健康への悪影響は低いと結論を出しています。

3-MCPDや1,3-DCPは意図的に食品に添加された添加物ではなく、加水分解によって添加された物質であり、その毒性の評価に必要なデータを完全に手にすることができないこと、そのためデータ不足で評価が不十分であること、ゆえにデータが得られるまで一時的に計算して、摂取し続けても健康に害のない1日の摂取量を「暫定最大1日耐容摂取量」としています。たんぱく加水分解物の発がん性が心配されるクロロプロパノール類については資料が少ない分、JECFAでは、その安全性の評価は現在もとどまらず行っているところです。

一方、国際がん研究機関(IARC)は、JECFAから3-MCPDが人体には危険性はないとの報告された後に得られた最新のデータをもとに、2012年に3-MCPDについて発がん性を評価した結果では、「3-MCPDについては、ヒトの発がん性に関する証拠はないものの、動物試験の結果では発がん性について十分な証拠があるため、ヒトに対しても発がん性があるかもしれない」という報告がなされたという事実もあります。

アレルギーの危険性

たんぱく加水分解物のアレルギーへの心配については、原料を加水分解するときに使用する酵素が、主に培養した微生物であるため、不純物が含まれていることでアレルギーが起こるのではと危険性も考えらていると言われています。

精製された純粋な酵素であるなら問題はにする必要は低いのですが、酵素に含まれている不純物が、人によってはアレルギーを引き起こしてしまうこともありうるという心配は否定しきれません。

最後に

たんぱく加水分解物とは加工食品にうま味やコクを加える化学調味料のことです。酵素や酸を使って動植物由来の反応物に水が反応して得られたアミノ酸をたくさん含んだ生成物です。加工食品にうま味を加える添加物ですが、添加物の調味料としてではなく「食品」に分類されています。そのため食品の表示に関しては厳しい取り決めがありませんが、消費者庁や厚生労働省からは、製造者には「添加した食品はすべて表示に明記する」ようにとは指示を出しているそうです。

気になるたんぱく加水分解物の発がん性へ危険性については賛否両論の意見のある中で、人間がたんぱく加水分解物の添加されている食品を食べたから発がんしたという報告は実際には、まだありません。しかし動物では発がん性があり、安全性のデータが少ないので一生涯人が摂取しても危険はない1日の摂取量については暫定的な数値しか上がっていないこと、また表示についても原則がなく企業任せという点であることで、果たして本当に安心な表示がなされているのかと不安になる点などから、まだまだ心配が残る化学調味料だと考えられています。たんぱく加水分解物と食品表示にこの文字を目にしたら、それはうま味を加えるための食品であることは知識に加え、今後の安全性の報告が出されたらさいしんの情報に目を配る必要があるかも知れません。

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