酒石酸とは、酒と言う漢字があるとおりお酒、それもワインから抽出する物質です。
前に有名なテレビ小説でも出てきましたから、名前だけは知っている人も多いと思います。
テレビ小説では戦時中に兵器としてもちいられた酒石酸ですが、実は、現在でもさまざまな場面で利用されて続けています。
この酒石酸の効果や用途について、いろいろと調べてみました。
ワインから抽出する食品添加物 酒石酸
酒石酸は有機酸化合物の一つ
酒石酸は、リンゴ酸やクエン酸など、ワインに多く含まれている有機酸化合物の一つで、リンゴ酸やクエン酸は自然界に分布する様々な果実に含まれていますが、酒石酸はブドウ特有のものであり、ワインの酸度を左右する重要な酸として重要視されています。
ブドウの場合、酒石酸がその多くを占めており、1リットルあたり約15グラム、マスト(ブドウ果汁)の中には3〜6グラム程度が存在していると言われています。
リンゴ酸もブドウに多く含まれる酸ですが、ヴェレゾン前に急激に増加したり、気候条件によって急激に減少したりするのに対し、酒石酸は比較的穏やかに変化します。
また、酒石酸は醸造過程を経ても激しい減少をしにくいことから、他の有機酸化合物と比較しても、生物学的に安定している酸です。
酒石酸カリウムとは
ワインを嗜む方ならご存じだと思いますが、ワインのコルクの裏側に付着している結晶のようなかたまり。
その正体が酒石酸ですが、厳密には酒石酸モノカリウムと呼ばれる物質であり、ワイン中に多く含まれている酒石酸とカリウムなどが結合してできたものです。
瓶詰め後、ワインの液中で酒石酸カリウムができると、キラキラと光ることから「ワインの宝石」などと呼ばれています。
しかし、普段飲んでいる多くのワインは濁りなどが無い透明な処理をされているものが多いため、この酒石酸カリウムをご存じでない方は「汚れ」だったり「カビ」などと勘違いしてしまう方も少なくないみたいです。
酒石酸カリウムは、前述したようにブドウ由来の酒石酸であり、人体に悪影響は一切ないと言われいますが、ザラザラした食感や多少の苦みを呈するため、見た目を含めてこれを嫌う消費者もおおいとか。
そのため、多くのワイナリーではワインの製造工程の中で、この酒石酸を除去する作業を行っています。
酒石酸の除去
酒石酸は、ワイン中のカリウムなどミネラル分と結合し、結晶を作ります。
これを嫌う消費者が多いため、ワイナリーでは酒石酸を取り除く作業を行っています。
その工程を調べました。
まず、ワインが出来上がった後、酒石酸とミネラル分が結合して酒石酸カリウムとして沈殿します。
さらに、ワインを瓶詰め前にマイナス3〜マイナス6度程度まで冷却すると、液中の酒石酸カリウムをほとんど沈殿させることができます。
その後、徹底した濾過作業を行うことで、瓶詰め後に酒石酸カリウムが発生しにくくなる状態を作ることができるのです。
しかし、この酒石酸カリウムの除去には問題点もあり、一部の生産者はこの工程を避ける傾向にあるようです。
酒石酸カリウム除去をしない理由
酒石酸カリウムを除去してしまうと、特に赤ワインの場合は味わいが薄くなってしまうと言われており、一部の生産者は濾過を行わないとのことです。
問題なのはカリウムなどのボディに関連するミネラル分と結合し、沈殿してしまうことで、ワインの味わいが低下してしまう可能性があるから。
また、酒石酸除去をしすぎるとワインのpHが高くなる恐れがあります。
総酸度が低くなる(pHが高くなる)と、酵母の活動が低下したり、ワインに悪影響を与える微生物が増加しやすくなったり、亜流酸を多く使用しなければならなくなるなど、デメリットも少なくありません。
これらのことから、一部の生産者は酒石酸カリウムを除去するとワインの品質に影響が出ると考えており、この作業を行わないのです。
酒石酸は補酸目的でも使用されている
酒石酸は、ブドウ由来の有機化合物なので、ブドウを醸造して造られるワインには必ず存在しています。
しかし、ブドウによって、また醸造過程によって酒石酸を含め、有機酸が少なくなって酸度が高くなってしまうこともあります。
そんな時、酒石酸は補酸目的のため添加されることもあります。
たとえば、酒石酸をワイン1リットルあたり、0.5〜1グラム添加することでpHが0.1下がると言われています。
数字だけ見ると、さほど酸度が下がっていないように見えますが、pHが1違えば、酸度に関連する溶液中の水素イオン濃度は10倍違うと言われているので、0.1も大きな数字と考えられます。
しかし、酒石酸は前述したようにカリウムを結合してしまうため、ワインの品質に影響を与えてしまう可能性があります。
そのため、近年ではリンゴ酸を使用して少しずつ酸度を下げている生産者もいるようです。
酒石酸は何に使われる
酒石酸は、その酸味を活かし、酸味料として主に清涼飲料水やゼリーなどにもちいられることが多いです。
そのほか、PH調整剤や膨張剤、調味料として使われることもある、食品添加物です。
酒石酸はの抽出方法
酒石酸は、ワイン作りの過程で副産物として得られます。
ワインの中に沈殿したり、樽や瓶にキラキラした結晶体が付着したり。ちなみにこの結晶体は酒石といい、ワインに含まれる酒石酸とカリウムが結合した物質です。
酒石酸の種類
酒石酸には、 L-酒石酸、D-酒石酸、DL-酒石酸とその塩類があります。
塩類とは、酒石酸のもつ水素原子を金属で置換したり、塩基の水酸基を酸基で置換したりしてできる化合物のことです。
L-酒石酸…多くの植物に含まれている酒石酸です。
D-酒石酸…ごく一部の植物に含まれている酒石酸です。
DL-酒石酸…化学合成で得られる化合物で、L体とD体が1:1の物質です。
酒石酸の特徴
酒石酸は、消化、吸収されない物質です。
そのため、摂取してもそのまま排出されたり、腸内細菌によって分解されたりします。
とはいえ、酒石酸はもともと食品の中に存在するものですから、安全性には問題ないと言われています。
酒石酸の用途と効果
食品添加物として
酒石酸と名のつく食品添加物はいくつかあり、それぞれ用途が異なります。
酒石酸は医薬品にも
催眠剤や入眠剤としてゾルピデム酒石酸塩、脳梗塞の後遺症や脳出血の後遺症に伴うめまいの改善としてイフェンプロジル酒石酸塩など、さまざまな医薬品があります。
しかし医薬品の宿命か、どれもなんらかの副作用が指摘されているようです。
酒石酸の危険性や毒性
酒石酸は毒性がないとされていますが、現在のところ、酒石酸の安全性を示す研究データは発表されていません。
また使用基準も設定されていません。
酒石酸カリウムナトリウムは食品には使用不可
酒石酸にカリウムとナトリウム両方を結合させた物質で別名:ロッシェル塩とも呼ばれる物質があります。正式名称は酒石酸ナトリウムカリウム四水和物といいます。
膨張剤として使用される酒石酸水素カリウムや調味料として使用される酒石酸ナトリウムと似ているため食品添加物として使用されていそうですが指定(認可)されていません。
テレビ小説で、戦時中にワイン作りを命じられたのを見て、不思議に思った人も多いのではないでしょうか。
酒石酸カリウムナトリウムは音波を捉える特性があるのです。
これを活かすと、潜水艦や魚雷のレーダーとして使えるため、戦時中はは酒石酸が必要とされていたのです。
酒石酸は食品添加物として認められた物質です
酒石酸は毒性がないとされていますが、現在のところ、酒石酸の安全性を示す研究データは発表されていません。
ただし、医薬品としての酒石酸には副作用が報告されており、大量に摂取すると、アシドーシスや腎障害を引き起こすと言われています。
酒石酸は軍事用としても使われていた
最後に、酒石酸にまつわるエピソードを紹介します。
お伝えしているように、酒石酸はワイン中のカリウム、またはナトリウムなどにミネラルと結合して酒石酸カリウムを作ります。
当然、ワインを貯蔵する酒樽の周壁に酒石酸がこびりつくわけですが、これは粗酒石(そしゅせき)と呼ばれており、これに加里ソーダを化合させると、酒石酸加里ソーダが精製されます。酒石酸加里ソーダは「ロッシェル塩」と呼ばれるもので、第2次世界大戦時のドイツがこのロッシェル塩を使用して、音波防御レーダーを開発しました。
潜水艦や魚雷に対処する兵器として、この音波防御レーダーは活躍するのですが、実は酒石酸がその開発の根本を担っていたのです。
当時、山梨県にある「サドヤ醸造場」が国内で唯一、ロッシェル塩の製造が可能でしたが、後に酒石酸の増産が政府により決定され、県内中のワイナリーのワイン造りが奨励されたという過去があります。
山梨県は、日本国内でも有数のワイン銘醸地ですが、酒石酸が武器の元となることから、別の側面でのワイン銘醸地としても活躍し続けていたのです。
まとめ
コルクの裏に付着している結晶に関連する「酒石酸」について調べました。
酒石酸は、自然に分布している有機酸とは違い、ブドウ特有の珍しい有機化合物です。
ワイン中の味わいや酸度に大きな影響を与えるほか、見た目という部分も消費者である私たちに影響を与えます。
良かったらワイン中に酒石酸カリウムを見つけた際、「汚れ」「カビ」としてのでなく勘違いして嫌がるのでなくぜひじっくりと眺めてみてはいかがでしょうか。
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