体の仕組み⑨ 体の中の化学工場・沈黙の臓器 肝臓

体の仕組み
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肝臓

肝臓(かんぞう)は、内臓で最も大きな臓器です。英語ではレバー liver」。

肝臓は、栄養素など、さまざまな物質を化学的に作り変えるはたらきを持ち、からだの中で最大の腺※(せん)といわれています。また、何千という酵素(こうそ)を使い、500以上の複雑な化学変化を起こしています。このために、肝臓と同じはたらきをする化学工場を、人間はまだ作ることができないといわれています。肝臓が元気であることは、すべての器官にとっても大切なことなのです。

【肝臓の大きさ】大人の肝臓は体重の約50分の1ほどあり、重さはおよそ1kg〜1.5kgです。※腺:体内にある特定の物質を生成・貯留・分泌(ぶんぴつ)・排泄(はいせつ)する器官

肝臓のはたらき

肝臓のはたらきは大きく分けると3つあります。

肝臓(かんぞう)で作られた胆汁(たんじゅう)は、胆(たん)のうに溜(た)まります。

【1】 胆汁(たんじゅう)を作る胆汁は、脂肪を消化するために必要な液体で、黄緑色をしています。胆汁は、肝細胞(かんさいぼう)から絶えまなく分泌(ぶんぴつ)されています。肝細胞では、ひ臓から運ばれてきたビリルビンという黄色い色素を水に溶けやすいように変化させて胆汁の中に排出(はいしゅつ)しています。

【2】 栄養素を貯え、変化させたりする

  • 多くの食べ物はそのままではからだに吸収されません。
  • 栄養素としてからだが吸収できるように肝臓で変化させています。
  • 【例】
  • ぶどう糖をグリコーゲンに変えて貯えておき、必要な時にエネルギーとして使うために体内へ送り出します。
  • 骨髄(こつずい)で必要な赤血球をつくるための葉酸(ようさん)や、ビタミンB12を貯えておき、必要な時に送り出します。
  • アミノ酸から、血液に必要なアルブミン〈たんぱく素〉とフィブリノゲン〈線維素(せんいそ)〉を作り、血液の中に送り出します。

【3】 毒を中和する

  • 体内に入った毒物を分解し、毒のないものに変えます。
  • 【例】
  • お酒のアルコールやたばこにふくまれるニコチンを中和しています。
  • 人が運動をすると筋肉がぶどう糖を燃やし、乳酸を作り出します。
  • 乳酸が血液中に溜(た)まると、からだは疲(つか)れを感じるといわれています。
  • 肝臓では乳酸をグリコーゲン〈糖原(とうげん)〉に変えています。

【4】 免疫細胞(めんえきさいぼう)が活躍している

  • 肝臓のマクロファージ※といわれているクッパー細胞がからだに入ってきた異物を貪食(どんしょく)します。
  • NK細胞がウイルスに感染(かんせん)した細胞や老化した細胞を処理します。
  • 免疫をコントロールするT細胞が免疫細胞の指令役のはたらきをしています。

※マクロファージ:外からの異物である細菌(さいきん)やウイルスを食べてしまう細胞で、大食(たいしょく)細胞といわれています。

肝臓(かんぞう)は切っても再生する

切り取り箇所や面積によりますが、肝臓は切り取っても再生するとても強い臓器なんです。

元にもどる力が強い肝臓(かんぞう)

肝臓は、少し切り取られても再生することができる、ただ一つの臓器です。元にもどる力が強いのが特徴(とくちょう)です。ラットなどで行った実験では、3分の2を切り取られた肝臓が、1週間ほどで、元の大きさにもどっています。

肝臓(かんぞう)と血液は何か関係

血液は骨髄(こつずい)の中で作られるが、一部は肝臓でも作られています。

肝臓はとても多くのはたらきをしている臓器なんです。

肝臓(かんぞう)と血液

肝臓は、骨髄(こつずい)が血液の赤血球を作るために必要な葉酸(ようさん)や、ビタミンB12を貯えておき、骨髄がそれを必要としたときに送りこみます。古くなった血液をこわすのも、肝臓の役目です。また、血液を凝固(ぎょうこ)させる物質も作っています。生まれる前の肝臓のはたらき免疫細胞(めんえきさいぼう)は、の中の骨髄で作られていますが、お母さんのお腹の中で胎児(たいじ)だった頃(ころ)、妊娠(にんしん)1ヶ月半〜3ヶ月半の間だけは肝臓がその役割を担っています。骨髄で免疫細胞が作られるようになるのは妊娠3ヶ月半頃からです。

肝臓の病気

肝臓(かんぞう)が炎症(えんしょう)を起こす

肝臓には大きな力の貯えがあるので、病気で肝臓の85パーセントがこわれてもはたらき続けることができるといわれています。そのため、病気になっても症状(しょうじょう)が出にくいことから、“沈黙の臓器”と呼ばれることもあります。肝臓は再生力の強い臓器ですが、炎症が慢性化(まんせいか)すると元にもどらなくなるため、日頃からいたわりと注意が必要です。

「肝炎(かんえん)」

【1】急性肝炎(きゅうせい・かんえん)

【どんな病気】肝炎ウイルスやアルコール、薬などによって肝細胞がこわされ、炎症(えんしょう)が起こります。ウイルスはA型・B型・C型などがあり、それぞれ感染ルートや症状(しょうじょう)のあらわれ方がちがいます。

ウイルスに感染してから数週間から数カ月後に症状があらわれます。主な症状は、からだのだるさ、食欲がない、白目や皮膚が黄色っぽくなる黄疸(おうだん)などです。

急性肝炎の治療法(ちりょうほう)は安静にしてバランスのとれた食事をとることが大切です。症状が重い場合は入院し、原因のウイルスに合わせた抗(こう)ウイルス薬を使用します。食欲がない場合は、点滴(てんてき)を行うこともあります。急性肝炎は原因のウイルスを排除(はいじょ)できれば、数カ月で症状が治まる場合もあります。

【2】慢性肝炎(まんせい・かんえん)

【どんな病気】おおむね6カ月以上、肝臓の炎症がつづいている状態です。 主に急性肝炎が治りきらないために起こりますが、自覚症状がとても軽いため健康診断の血液検査で偶然(ぐうぜん)に見つかることが多いようです。しかし、そのまま放っておくと肝硬変(かんこうへん)や肝臓がんになることもあるため、注意が必要です。症状としては、食欲がない、疲れやすい、ときどき吐き気(はきけ)がするなど。ウイルスのタイプや病気の進行度に合わせ、いくつかの薬を組み合わせて使います。

【3】 肝硬変(かんこうへん)

【どんな病気】肝硬変(かんこうへん)は、慢性肝炎などによって肝臓の細胞が破壊(はかい)と再生を繰(く)り返すうちに、繊維状(せんいじょう)になり肝臓が固くなる病気です。肝臓のはたらきが低下して、もとにもどらなくなります。また、肝臓がんに発展することもあります。

はじめはあまり症状(しょうじょう)がないことが多く、進行するにつれてだるさや吐き気(はきけ)、体重が減るなどさまざまな症状があらわれます。さらに進行するとむくみやお腹がふくれる感じ、黄疸(おうだん・皮膚(ひふ)や白目などが黄色くなること)、手のひらが赤くなるなどの症状があらわれます。

【治療(ちりょう)】抗ウイルス薬を使い、肝細胞(かんさいぼう)の破壊(はかい)や炎症(えんしょう)を抑(おさ)えます。バランスの良い食事をとることや禁酒、激しいスポーツを避(さ)けることも大切です。

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